いつの間にかホタルのシーズンになりました。毎年いろいろな場所に出かけてみますが、少ししか見られません。そこで、娘家族と、椿山荘で開催される「ホタルを見る夕べ」に行くことにしました。大雨の予想でしたが、日が暮れるとともに雨が上がり、元は明治の元勲の屋敷だったという広大な庭の一部は、入場券を持った人々でにぎわっていました。雨上がりのためか、そこには私がこれまで見たことのない、「蛍川」とはこのことか、というような点滅する無数の光の帯がありました。かつて見た、外房大原の渓流のホタルは天然のものでしたが、これは人工的に飼育したホタルによる都会の幻想です。灯りを消された庭園を迷いつつ、いつしか人込みを離れていくと、向こうの暗闇から女性の声がします。年配の女性の手を引いているようです。「お母さん、あっちにホタルがいるらしいよ、たくさんの人の声がする」私は、この二人はいったいどこから来たのだろう、と思いました。暗闇がもたらした小さな不思議です。 小倉明